『地理院地図Vector』に〔活断層図〕があります。その中から、茅野市坂室の宮川が大きく屈曲する箇所を中心に切り取ってみました。いわゆる「坂室の横ずれ断層」と呼ばれる場所です。
これを見ると、宮川以南では、断層線は不明確となっています。私にはボーリングや地質の調査はできませんが、地図からわかる地形の見た目から、上図の「やや不明確」の部分は「坂室の横ずれ断層から直線で続く明確な活断層線」として検証してみました。
前置き(例言)が長くなりますが、これを書かないと次に進まないので…。まずは、〔自分で作る色別標高図〕を使い、802mから824mまでを2m毎に色分けしたものを作ってみました。さらに、812mのみを赤くして、離れた場所でも高低差が比較できるるようにしました。
これに通常の地図を重ねたのですが、(ゴチャゴチャするので)鉄道・道路・建物などを非表示にし、私が唱える「直線の断層」を破線で引いたのが下図です。
これを眺めると、通常の地図では判別できませんが、二箇所の◯内で尾根と山裾が同じ[へ・乁]状になっているのがわかります。また、それから延びる右下がりのラインは中央本線の線路敷ですが、断層線と並行しているので何かの関連性があることを思ってしまいます。
ネットで、藤森孝俊著『活断層からみたプルアパートベイズンとしての諏訪盆地の形成』(以下『諏訪盆地の形成』)が閲覧できます。その中の〔1.茅野市坂室〕では、「断層が起こる前は、A尾根とD尾根は連続した尾根であった」と書いています。
上図を、添付のシミュレート図に合わせて動かしてみました。これが、断層が起こる前の地形ということになります。
ただし、『諏訪盆地の形成』は、(ずれた)下半分の地形には触れていません。
「A尾根・D尾根連続説」とは別に、「かつては繋がっていたと特定できそうな具体的なもの」を探すと、同じ標高812mとなる二地点があります。
その距離を約390mと測定し、間にある尾根に干渉しない二地点を結ぶ断層線を新たに設定すると、方位角142°となりました。
新たに、その数値を適用して動かしてみました。そのままではわからないので拡大すると、二地点はこのように並びました。
ただし、この設定(ズレ量)では、右下の破線の部分はあり得ない地形となります。現存する山塊をスライスして押しやることになるからです。
ここで、冒頭で挙げた断層に並行する線路敷のラインを振り返ると、それをもう一つの断層とすることができます。
私にはそのメカニズムを説明する術はありませんが、双方のラインを組み合わせ「屈曲した断層線」として滑らすと、四方無理なく収まります。その結果、開いた平行四辺形の凹地が小型のプルアパートベイズンと言えますが…。
一方で、口が開いたような特異な形状の尾根が気になります。当初は断層で動いた後に宮川と弓振川の浸食でやせ尾根になったと考えましたが、この場所では、左が赤石山系(南アルプス)で右側が八ヶ岳火砕流の堆積です。その火砕流が赤石山系にぶつかって末端の一部が細長くなって止まったとすれば、本尾根の等高線からも原初からこの形状であったと説明がつきます。
〔全国最新写真(シームレス)〕です。
線路の左右に接する山裾の直線部(……)は、レールを施設した結果の地形ではなく、カーブと起伏が少ないルートを選んだら「もう一つの横ずれ断層」の上だったということでしょう。
その直線の線路を写真にしてみました。[1・2]が撮影場所です。
尾根を分断した箇所に歩行者用の踏切があります。
そこから[1→2]を撮ったもので、左が八ヶ岳側の尾根になります。拡大すると消滅点手前で線路が右にカーブしていますから、下の写真に対応していることがわかります。
土手を這い上ったら線路の保守施設があり、線路敷に入らずに[2→1]を撮ることができました。
しかし、前写真もそうですが、左右の尾根が前後にずれていることもあって、その地勢を十分に写し切れないままで終わりました。
現在の色別標高図に、鉄道・道路と「同じ標高812mが一致する二地点[1・2]を結んだ断層線」を重ねて拡大したものです。
衛星写真では高低差がわからないので、かつては繋がっていたと想定した二つの地点がどのような景観なのかと現地で確認してみました。
[1]
標高812mに相当するのは、左側の家並みです。
今まで気が付かなかったのですが、県道(旧国道)上では御射山道が交差する場所が最高地点でした。つまり、茅野市街方面(手前)からは上りで、青い水槽からやや下って再び登坂車線もある急坂になります。
[2]
県道から、見下ろすほどの下の道に降り、断層崖の名残とも見える石垣を右に見て進みます。目標は、衛星写真で確認した奥の赤い屋根です。
この周辺では最高地点に当たる民家です。その前を左に折れると、宮川の崖縁でした。
あくまで机上の推論ですが、現地で「この辺りが酒室神社の前に位置していた」とする場所に立つと、頷(うなず)くとともに、頭上の暑さに負けない熱い達成感に包まれました。
ここまでは「地図上・横ずれは直線」と考えた上での考察ですが、一つの可能性として、ここに読んでいただくことにしました。