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国蝶 オオムラサキ 2012.7.15

 伊那谷を見下ろす河岸段丘の高台に「御射山三社」があります。拝殿前に立つと、床の梁に大型のチョウが留まっていました。羽は閉じていますが、その大きさからオオムラサキと直感しました。近づいても、その動きの緩慢さに変化は見られません。それでも、自身の動きを最小限に抑えて拝殿の前面を目で追うと、計五頭が見つかりました。その中に特徴のある色と文様を見せているチョウがあり、国蝶のオオムラサキと断定できました。

国蝶オオムラサキ 一番近いチョウが吸管をしきりに動かしているので、その対象が何であるかと注視しました。
 木肌に黒く変色している部分がありますが、築何十年かの建造物なのでヤニでさえも出ることはありません。何かの樹液が付着したというより、朝方降った雨が乾き残ったとしか考えられません。かなりの強風を伴っていたので、雨が乾燥しきった木芯近くまで浸透し、それが蒸発する際に木の残り香が出たと私なりに推理してみました。

国蝶オオムラサキ 個体は違いますが、枯れきった木部を同じように探っています。観察者にとっては決して報われることがない行為と映りますが、当事者であるオオムラサキは、そこから離れることができないほどの匂いに執着しているのでしょう。
 たぶん、この季節の様々な要因が織りなした光景に、私がたまたま立ち会ったということなのでしょう。当時の私がこのことを知っていたら、捕虫網を持って駆けつけたのは間違いありませんが、現在の私には遠い過去の趣味となっています。捕獲したままになっていた不透明の三角紙から漂ってきたかすかな腐臭がよみがえってきました。