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舟石「仮称 人頭蛇身石」 茅野市北山 2011.9.16

 「人の顔にヘビの胴体」という怪異な石造物の存在は知っていました。しかし、所在地が大ざっぱな「麦草峠」としかわからず、興味は引かれるものの写真を見るだけに甘んじてきました。

 「折橋子ノ社」を調べる中で、糸萱区誌編纂委員会『糸萱区誌』にその詳細な記述を見つけました。

 庭園には変わった石造物がある。広場を作った頃、渋川温泉に行く分かれ道にこの舟石があった。その場所を別荘地として貸すことになり、この石像の散逸をおそれた関係者がここに運んできた。日は入っているが作った年代や制作者、その意図も分からない。蛇の尻尾に人間の顔というユニークな石造物にはお賽銭が上げられている。

 「横谷観音」について書かれた項なので、その境内にあることがわかりました。こうなれば、実物を拝みに行くしかありません。

横谷観音展望台から見た守屋山
横谷観音展望台からの眺望(遠景左端が守屋山)

 横谷観音の駐車場から5分も歩くと「広場」に出ました。『区誌』にある「庭園・広場」という表現通り、境内ではなく、広場の隅に観音堂があり・東屋と展望台があり・大石の上に「舟石」が安置されているという場所でした。

人頭蛇身石像

 『区誌』で言う「舟石」は光背(こうはい)の形状から命名したのでしょうが、これだけ特異な造形ですから固有名称があってもよさそうです。

舟石 私なりに考えると(見た目そのままという安易な)「人蛇石」や「人頭蛇体石」が候補に挙がりますが、『区誌』は公の本ですから差し障りのない名称で書くしかなかったのでしょう。地元でもその存在が知られておらず、人の口に上ることもなかったのかもしれません。
 改めて観察すると、左に「四月十三日」とあるだけです。これだけでは、誰が何のために建てたのか・コケは乗っているものの、どれほどの古さなのかはわかりません。

宇賀神 それでも「何かないか」と舐めるように観察した結果、顔の右上に赤い線を見つけました。線と言うより凹部に残った朱の集合ですが、そのつもりで見つめると、耳の下辺りから頭部に掛けての半円状の線が「頭光(ずこう)」に見えてきました。
 白い円弧でマークしたので、その内側にある赤い線がわかるかと思います。これで、柔和な顔から見ても仏様に近くなりました。しかし、手足がありませんから、石仏とは言えません。『区誌』では「渋川温泉に行く分かれ道にあった」と書いていますから、滝や温泉にまつわる何らかの言い伝えがあるのかもしれません。

 名付けた経緯がわからない「メルヘン街道(国道299号)」に戻り、さらに高度を稼ぎました。
渋川口 かつて、石像が立っていたという「渋川口」の交差点です。バス停や別荘分譲・レストランの看板はあっても、「旧鎮座地」の記念碑があるわけではないので、今回の“取材”に区切りを付けるだけの場所となりました。

虎尾大明神

 交差した尾の先が、少しだけクサビ状に広がって見えることが気になっていました。「ヘビ」と決めつけていましたが、これを動物の尻尾と見れば、…トラの尾で、「虎尾大明神」に繋がります。虎尾神社は八ヶ岳の阿弥陀岳御小屋尾根山中にあります。こちらも謎の神社で、「虎尾」と彫られた神号碑が三基あります。私は、背後の「西岳」と「(西方の)白虎」の関係ではないかと考えていますが、「渋川口」の四方を眺めた限りでは、舟石の「虎尾」には結びつくものはありませんでした。「ろくろっ首」などの妖怪にも見えますが、顔はあくまで仏です。やはり、『糸萱区誌』にあるように、「不思議な石仏」として終えることしかできません。

人頭蛇身

 「人頭蛇身」で検索すると、「宇賀神」がヒットします。写真もとぐろを巻いた上に頭があるので、意匠は違っても舟石と同一のものです。「弁才天と習合した」とありますから、横谷渓谷の川や滝を統括する竜神と結びつけることができます。“そう思って”改めて写真を注視すると、下部の模様は(本来は蓮華台だそうですが)波目に見えてきます。諏訪では「人頭蛇身像」は一般的ではありませんが、宇賀神と考えれば、ここにあっても不思議ではなくなりました。